e1d32933『禁酒番屋』
 少しずつ寒くなって参りました。
そろそろお酒の噺もよかろうと取り上げました。

【原話】
1957年の梅亭金鷲の「妙竹林話七偏人」に似た下りがあるそうです。
それが『禁酒関所』という上方落語の演目になり、東京へは3代目小さん師が東京に移植しました。

【ストーリー】
とある武家の家中で、泥酔した二人のお侍がチャンバラを始め、一人がもう片方をバッサリ。
斬った方はそのまま帰って酔いつぶれ寝込んでしまったが、翌朝目覚めて我に返るや、「主君に申し訳ない」
 とこちらも切腹をしてしまいました。その話を聞いた主君、
「酒が災いしての無益な斬り合い、何とも嘆かわしい事じゃ。今後、わが藩では藩士が酒を飲む事を禁ずる。余も飲まぬからみなも飲むな」
 殿様自ら『余も飲まぬ』とのお達しがあれば、藩士一同否応なく禁酒するしかないのですが・・・・
 こうして家中一党禁酒と相成りましたが、何しろものが酒なので、そう簡単にやめられるわけがない。なかなか禁令が行き届かず、隠れてチビリチビリやる者が続出する始末です。また騒動になることを恐れた重役が会議をした結果、屋敷の門に番屋を設け、出入りの商人の持ち込む物まで厳しく取り締まる事になった。人呼んで「禁酒番屋」と呼ばれました。
 暫くは何も無かったのですか、家中の近藤が、馴染みの酒屋に来て、たらふく飲んで行きます。
「自分の所でも呑みたいいから、届けてくれ」
 と言って帰って行きます。もとより上得意、亭主も無下には断れないが、近藤の長屋は武家屋敷の門内、配達が露見すれば酒屋は営業停止もの。しかも入口には例の「禁酒番屋」が控えているので、皆で知恵を出し合います。
 はじめに、頭がうまい番頭が知恵を出します。五合徳利を二本菓子折りに詰め、カステラの進物だと言って通ればよいというのです。
 まあやってみようというので、早速店の者が番屋の前に行ってみるが……。
 番人もさるものですが、進物と聞いて納得したのですが、うっかり
「どっこいしょ」
 と口に出してしまいました。これは、妖しいと、抗議の声も聞かばこそ、折りを改められて、
「これ、この徳利は何じゃ」
「えー、それはその、水カステラてえ新製品で」
「水カステラァ?たわけたことを申すな。
そこに控えおれ。中身を改める」
 一升すっかりのまれてしまいました。
 カステラで失敗したので、今度は油だとごまかそうとしたが、これも失敗。都合二升もただでのまれ、腹の虫が治まらないのが酒屋の亭主。
 そこで若い衆(小僧)が、今度は小便だと言って持ち込み、仇討ちをしてやろうと言いだします。正直に初めから小便だと言うのだから、こちらに弱みはありません。

「……ご同役、実にどうもけしからんもので。初めはカステラといつわり、次は油、またまた小便とは……これ、控えておれ。ただ今中身を取り調べる。……今度は熱燗をして参ったと見える。けしからん奴。小便などといつわりおって。かように結構……いや不埒なものを……手前がこうして、この湯のみへついで……ずいぶん泡立っておるな。……ややっ、これは小便。けしからん。かようなものを持参なし……」
「ですから、初めに小便と申し上げました」
「うーん、あの、ここな、正直者めが」

【演者】
現在は広く演じられていますがやはり柳家の噺家さんが多いですね。
芸協では先代の文治師が得意にしていました。

【注目点】
「手代が思わず『ドッコイショ』と言ってしまい、怪しまれてしまう」演出は5代目柳家小さん師が考えだしました。

『能書』
番屋の侍の酔い方ですが、昔は肩を揺すって職人のような酔い方だったそうですが、三代目三木助師が「身分は低くても侍なのだからそんなことはない」と言っていたそうです。それを聞いて九代目小三治師(五代目小さん師)から改めたそうです。

『ネタ』
三番目の仕返しの処で小便を瓶に詰める過程で、バレ噺ぽくする演出もあります。
(まあ女性が瓶に入れる過程を描いたりするのですが・・・上方の演出なのだそうです)