『星野屋』
やっと寒くなり始めましたが、一日の気温差が激しいですので、くれぐれも体調には留意してください。
という訳で今日はこの噺です。
この噺ですが、個人的にはどこか「辰巳の辻占」に似てる気がします。
「落語騙しのテクニック」とも言われています。
【原話】
原話は元禄11年に刊行された『初音草大噺大鑑』の一遍である「恋の重荷にあまる知恵」です。
1807年の喜久亭壽暁のネタ帳「滑稽集」には「女郎買 五両楠ね」とあります。
【ストーリー】
旦那は弁天山の下の茶店「すずしろ」のお花を世話していると、女中が奥様に御注進。奥様が旦那に問い詰めると、お客様のお世話をしている女だが、大阪に帰ってしまうので、「後は星野屋、お前が面倒を見てくれ」と言う事で、面倒を見ている女なのだ。と、しどろもどろで弁解をします。
「良いきっかけなので、ここで別れよう。」と、奥様に口約束します。
お花の家に行って、50両の金を出して別れ話を切り出しますが、 お花は
「お金は受け取れないし、他に好きな女が出来たのなら、ハッキリ言えばいいでしょ。水くさいんだから・・・。私は旦那しか居ないんだから、そんな事言われたら死んでしまいます。」
「嬉しいね。死んでくれるか。私は養子で女房には頭が上がらないんだ。その上、星野屋は仕事が上手くいかなくて左前になっている。私も死のうと思っていた。一緒に死のう。八つを合図に 今夜来るから、母親に気ずかれるなよ。」
と言い残して帰ります。八つに迎えに来た旦那はお花の手を取って、吾妻橋にやって来るのですが、旦那は
「人が来た。先に行くぞ。」
と、ドブンっと飛び込んでしまった。
「気が早いんだから〜」
とお花は躊躇します。その時、屋根舟が一艘やって来て、一中節の上辞で「♪さりとは狭いご了見、死んで花が咲くかいな。楽しむも恋、苦しむも恋、恋という字に二つはない」
それを聞いてお花は
「そうだよね、死んで花が咲かないよね。旦那〜、おっかさんもいるんで、失礼しま〜す。」
と、こんな失礼な事はありません。
一時の感情の高ぶりで死ぬと切り出したものの、お花の方は恐くなって家に帰って来て、タバコを一服していると、重吉が尋ねてきます。
「星野屋の旦那が来なかったか」
と切り出した。「いいえ」と知らん顔を決め込もうとするお花に、
「知らないならいいんだよ。ただね、今夜はおかしいんだ。眠れないで、トロトロとしていたら、雨も降っていないのに、あたしの枕元にポタポタと水が滴り落ちる。なんだろうと思って、ふと上を見ると、 旦那が恨めしそうな顔で、『お前が世話してくれた女だが、一緒に死ぬと言うから、吾妻橋から身投げしたのに、あの女は帰ってしまった。あんな不実な女だとは知らなかった。これから、毎晩、あの女のところに化けて出て、取り殺してやる』 と言うもんだからね、ちょっと気になってねえ、何も無かったんだな。じゃ、帰るからな」
「チョット待っておくれよ、重さん、本当は、チョットだけ行ったんだよ。どうか、出ない方法はないかね。」
「それだったら、髪の毛を切って、今後雄猫一匹膝に乗せませんって、墓前に供えたら浮かばれるだろう」
すると、お花は裏に入って髪を切って、頭には姉さん被りをして出てきます。
「これなら、旦那も浮かばれるだろう」
そこに死んだはずの旦那が入ってきた。
「あら、旦那!」。
「旦那はな、お前を家に入れたくて、俺のところに相談に来たんだ。一緒に飛び込んでいたら、旦那は泳ぎは名人だし、橋の下には5艘の舟と腕っこきの船頭がいて、水の一滴すら飲ませずに星野屋に入れるとこだったんだ。」
「それならもう一回行きましょう」。
「旦那、こういう女なんだ。大事にしている髪の毛を切ったので我慢してください」、
「そんな髪なら、いくらでもあげるよ。それが本物の髪の毛だと思っているのかい、それはカモジだよ」
「チクショウ!お前はふん縛(じば)られるぞ。その金を使ってみろ。お前は、捕まって、火あぶりになるぞ。それは偽金だ。」
「ちくしょう、どこまで企んでんだ。こんな金返すよ。」
「ははは、本当に返しやがった。偽金なんて話は嘘だよ。これは本物の金だ。偽金だったら旦那が先に捕まってしまう。」
「どこまで企んでんだ。おっかさん!あれは本物だってよ。」
「私もそうだと思って、3枚くすねておいたよ」。
【演者】
黒門町の十八番でしたね。他には八代目柳枝師がやっていました。
他には志ん生師や柳橋先生も演じていました。
【注目点】
水茶屋とは、表向きは、道端で湯茶などを提供する茶屋ですが、実は酒も出し、美女の茶酌女は、今でいうコンパニオンで、
心づけしだいで売春もすれば、月いくらで囲い者にもなります。
笠森お仙、湊屋おろくなど、後世に名を残す美女は、
浮世絵の一枚絵や美人番付の「役力士」になりました。
桜木のお花もその一人で、実在の人物で、芝居でも黙阿弥が「加賀鳶」に登場させています。
『ネタ』
一中節 は、初世都一中が創始した、京浄瑠璃の一派です。
上方では元禄期、江戸ではずっと遅れて文化年間以後に流行・定着しました。
「小春」は通称「黒髪」で、「小春髪結の段」のことです。
この部分、ほとんどの演者が入れますが、「星野屋」を得意とした八代目柳枝の節回しが、ほんとによかったそうです。
「蛇足」
この噺を小佐田定雄氏が脚色したものを、桂文珍師が初演しており、さらに歌舞伎化されています。
そして登場する水茶屋の女『桜木のお花』は実在人物だそうです。
やっと寒くなり始めましたが、一日の気温差が激しいですので、くれぐれも体調には留意してください。
という訳で今日はこの噺です。
この噺ですが、個人的にはどこか「辰巳の辻占」に似てる気がします。
「落語騙しのテクニック」とも言われています。
【原話】
原話は元禄11年に刊行された『初音草大噺大鑑』の一遍である「恋の重荷にあまる知恵」です。
1807年の喜久亭壽暁のネタ帳「滑稽集」には「女郎買 五両楠ね」とあります。
【ストーリー】
旦那は弁天山の下の茶店「すずしろ」のお花を世話していると、女中が奥様に御注進。奥様が旦那に問い詰めると、お客様のお世話をしている女だが、大阪に帰ってしまうので、「後は星野屋、お前が面倒を見てくれ」と言う事で、面倒を見ている女なのだ。と、しどろもどろで弁解をします。
「良いきっかけなので、ここで別れよう。」と、奥様に口約束します。
お花の家に行って、50両の金を出して別れ話を切り出しますが、 お花は
「お金は受け取れないし、他に好きな女が出来たのなら、ハッキリ言えばいいでしょ。水くさいんだから・・・。私は旦那しか居ないんだから、そんな事言われたら死んでしまいます。」
「嬉しいね。死んでくれるか。私は養子で女房には頭が上がらないんだ。その上、星野屋は仕事が上手くいかなくて左前になっている。私も死のうと思っていた。一緒に死のう。八つを合図に 今夜来るから、母親に気ずかれるなよ。」
と言い残して帰ります。八つに迎えに来た旦那はお花の手を取って、吾妻橋にやって来るのですが、旦那は
「人が来た。先に行くぞ。」
と、ドブンっと飛び込んでしまった。
「気が早いんだから〜」
とお花は躊躇します。その時、屋根舟が一艘やって来て、一中節の上辞で「♪さりとは狭いご了見、死んで花が咲くかいな。楽しむも恋、苦しむも恋、恋という字に二つはない」
それを聞いてお花は
「そうだよね、死んで花が咲かないよね。旦那〜、おっかさんもいるんで、失礼しま〜す。」
と、こんな失礼な事はありません。
一時の感情の高ぶりで死ぬと切り出したものの、お花の方は恐くなって家に帰って来て、タバコを一服していると、重吉が尋ねてきます。
「星野屋の旦那が来なかったか」
と切り出した。「いいえ」と知らん顔を決め込もうとするお花に、
「知らないならいいんだよ。ただね、今夜はおかしいんだ。眠れないで、トロトロとしていたら、雨も降っていないのに、あたしの枕元にポタポタと水が滴り落ちる。なんだろうと思って、ふと上を見ると、 旦那が恨めしそうな顔で、『お前が世話してくれた女だが、一緒に死ぬと言うから、吾妻橋から身投げしたのに、あの女は帰ってしまった。あんな不実な女だとは知らなかった。これから、毎晩、あの女のところに化けて出て、取り殺してやる』 と言うもんだからね、ちょっと気になってねえ、何も無かったんだな。じゃ、帰るからな」
「チョット待っておくれよ、重さん、本当は、チョットだけ行ったんだよ。どうか、出ない方法はないかね。」
「それだったら、髪の毛を切って、今後雄猫一匹膝に乗せませんって、墓前に供えたら浮かばれるだろう」
すると、お花は裏に入って髪を切って、頭には姉さん被りをして出てきます。
「これなら、旦那も浮かばれるだろう」
そこに死んだはずの旦那が入ってきた。
「あら、旦那!」。
「旦那はな、お前を家に入れたくて、俺のところに相談に来たんだ。一緒に飛び込んでいたら、旦那は泳ぎは名人だし、橋の下には5艘の舟と腕っこきの船頭がいて、水の一滴すら飲ませずに星野屋に入れるとこだったんだ。」
「それならもう一回行きましょう」。
「旦那、こういう女なんだ。大事にしている髪の毛を切ったので我慢してください」、
「そんな髪なら、いくらでもあげるよ。それが本物の髪の毛だと思っているのかい、それはカモジだよ」
「チクショウ!お前はふん縛(じば)られるぞ。その金を使ってみろ。お前は、捕まって、火あぶりになるぞ。それは偽金だ。」
「ちくしょう、どこまで企んでんだ。こんな金返すよ。」
「ははは、本当に返しやがった。偽金なんて話は嘘だよ。これは本物の金だ。偽金だったら旦那が先に捕まってしまう。」
「どこまで企んでんだ。おっかさん!あれは本物だってよ。」
「私もそうだと思って、3枚くすねておいたよ」。
【演者】
黒門町の十八番でしたね。他には八代目柳枝師がやっていました。
他には志ん生師や柳橋先生も演じていました。
【注目点】
水茶屋とは、表向きは、道端で湯茶などを提供する茶屋ですが、実は酒も出し、美女の茶酌女は、今でいうコンパニオンで、
心づけしだいで売春もすれば、月いくらで囲い者にもなります。
笠森お仙、湊屋おろくなど、後世に名を残す美女は、
浮世絵の一枚絵や美人番付の「役力士」になりました。
桜木のお花もその一人で、実在の人物で、芝居でも黙阿弥が「加賀鳶」に登場させています。
『ネタ』
一中節 は、初世都一中が創始した、京浄瑠璃の一派です。
上方では元禄期、江戸ではずっと遅れて文化年間以後に流行・定着しました。
「小春」は通称「黒髪」で、「小春髪結の段」のことです。
この部分、ほとんどの演者が入れますが、「星野屋」を得意とした八代目柳枝の節回しが、ほんとによかったそうです。
「蛇足」
この噺を小佐田定雄氏が脚色したものを、桂文珍師が初演しており、さらに歌舞伎化されています。
そして登場する水茶屋の女『桜木のお花』は実在人物だそうです。