『言い訳座頭』
「言訳座頭」とも書きます。
【原話】
四代目橘家円喬師から「催促座頭」という噺があるのを聞き、それと反対の噺をと思いついたと言われています。三代目小さん師から七代目可楽師に伝わりました。
【ストーリー】
長屋の甚兵衛夫婦は借金が溜まってどうにもなりません。
大晦日、かみさんが、口の旨い座頭の富市に頼んで、借金取りを撃退してもらうほかはないと言うので、甚兵衛はなけなしの一円を持って早速頼みに行来ます。
富市は、最初は金でも借りに来たのかと勘違いして渋い顔をしましたが、色々と訳を聞くと
「米屋でも酒屋でも、決まった店から買っているのなら義理のいい借金だ。それじゃああたしが断ってあげよう」
と、快く引き受けてくれることになります。
「商人は忙しいから、あたしがおまえさんの家で待っていて断るのは無駄足をさせて気の毒だから」
と、直接店に乗り込もうという寸法。富市は
「万事あたしが言うから、おまえさんは一言も口をきかないように」
とくれぐれも注意して、二人はまず米屋の大和屋に出かけて行来ます。
大和屋の主人は、有名なしみったれ。富市が頼み込むと、
「今日の夕方にはなんとかすると夫婦揃って約束したじゃないか。だから待てない」
と、断られます。 でも富市は居直って
「たとえそうでも、貧乏人で、逆さにしても払えないところから取ろうというのは理不尽だ。こうなったら、ウンというまで帰らねえ」
と、店先に座り込みます。 他の客の手前、大和屋も困ってしまい、来春まで待つことになりました。
次は炭屋さんです。ここは富市が始終揉み療治に行くので懇意だから、やりにくいとこぼします。しかも親父は名うての頑固一徹。ここでは強行突破で、散々炭にケチをつけて
「どうしても待てないというなら、頼まれた甚さんに申し訳が立たないから、あたしこここで殺せ、さあ殺しゃあがれ」
と、往来に向かってどなる。挙げ句、人殺しだとわめくので、
周りはたちまちの人だかり。炭屋は外聞が悪いのでついに降参。 次は魚屋です。
これはけんかっ早いから、薪屋のような手は使えない。
「さあ殺せ」なんて言えば、すぐ殺されてしまいます。こういう奴は下手に出るに限る
というので、
「実は甚兵衛さんが貧乏で飢え死にしかかっているが、たった一つの心残りは、魚金の親方への借金で、これを返さなければ死んでも死にきれない
と、うわ言のように言っている」
と泣き落としで持ちかけ、これも成功。ところが、
その当の甚兵衛が目の前にいるので、魚屋
「患ってるにしちゃあ、馬鹿に顔色がいい」
と皮肉たっぷり言いますので、さすがの富市も慌てて、
「熱っぽいから火照っている」
とシドロモドロでやっと誤魔化します。
そうこうするうちに、除夜の鐘。ぼーん。富市は急に、
「すまないが、あたしはこれで帰るから」
と言い出します。
「まだ三軒ばかりあるよ」
「そうしちゃあいられねえんだ。これから家へ帰って自分の言い訳をしなくちゃならねえ」
【演者】
柳家の噺ですね。「睨み返し」等と並んで暮れの噺ですね。
【注目点】
本来は男ばかりの出演者だが五代目小さん師が酒屋の女将さんを登場するように工夫したそうです。高座によってはそのバージョンで演じた事もあるそうです。その方が噺が柔らかくなると考えたそうです。
『能書』
江戸時代、座頭が「座頭金」という高利貸し許されていましたが、返済が滞ると座頭が集団で押し掛けたそうです。これを「催促座頭」と言ったそうです。
『ネタ』
座頭の「市」は盲人の最下級の位で、古くは「都」とか単に「一」と書いたそうです。
一両を本所の総録屋敷に収めると名乗れたそうです。
「言訳座頭」とも書きます。
【原話】
四代目橘家円喬師から「催促座頭」という噺があるのを聞き、それと反対の噺をと思いついたと言われています。三代目小さん師から七代目可楽師に伝わりました。
【ストーリー】
長屋の甚兵衛夫婦は借金が溜まってどうにもなりません。
大晦日、かみさんが、口の旨い座頭の富市に頼んで、借金取りを撃退してもらうほかはないと言うので、甚兵衛はなけなしの一円を持って早速頼みに行来ます。
富市は、最初は金でも借りに来たのかと勘違いして渋い顔をしましたが、色々と訳を聞くと
「米屋でも酒屋でも、決まった店から買っているのなら義理のいい借金だ。それじゃああたしが断ってあげよう」
と、快く引き受けてくれることになります。
「商人は忙しいから、あたしがおまえさんの家で待っていて断るのは無駄足をさせて気の毒だから」
と、直接店に乗り込もうという寸法。富市は
「万事あたしが言うから、おまえさんは一言も口をきかないように」
とくれぐれも注意して、二人はまず米屋の大和屋に出かけて行来ます。
大和屋の主人は、有名なしみったれ。富市が頼み込むと、
「今日の夕方にはなんとかすると夫婦揃って約束したじゃないか。だから待てない」
と、断られます。 でも富市は居直って
「たとえそうでも、貧乏人で、逆さにしても払えないところから取ろうというのは理不尽だ。こうなったら、ウンというまで帰らねえ」
と、店先に座り込みます。 他の客の手前、大和屋も困ってしまい、来春まで待つことになりました。
次は炭屋さんです。ここは富市が始終揉み療治に行くので懇意だから、やりにくいとこぼします。しかも親父は名うての頑固一徹。ここでは強行突破で、散々炭にケチをつけて
「どうしても待てないというなら、頼まれた甚さんに申し訳が立たないから、あたしこここで殺せ、さあ殺しゃあがれ」
と、往来に向かってどなる。挙げ句、人殺しだとわめくので、
周りはたちまちの人だかり。炭屋は外聞が悪いのでついに降参。 次は魚屋です。
これはけんかっ早いから、薪屋のような手は使えない。
「さあ殺せ」なんて言えば、すぐ殺されてしまいます。こういう奴は下手に出るに限る
というので、
「実は甚兵衛さんが貧乏で飢え死にしかかっているが、たった一つの心残りは、魚金の親方への借金で、これを返さなければ死んでも死にきれない
と、うわ言のように言っている」
と泣き落としで持ちかけ、これも成功。ところが、
その当の甚兵衛が目の前にいるので、魚屋
「患ってるにしちゃあ、馬鹿に顔色がいい」
と皮肉たっぷり言いますので、さすがの富市も慌てて、
「熱っぽいから火照っている」
とシドロモドロでやっと誤魔化します。
そうこうするうちに、除夜の鐘。ぼーん。富市は急に、
「すまないが、あたしはこれで帰るから」
と言い出します。
「まだ三軒ばかりあるよ」
「そうしちゃあいられねえんだ。これから家へ帰って自分の言い訳をしなくちゃならねえ」
【演者】
柳家の噺ですね。「睨み返し」等と並んで暮れの噺ですね。
【注目点】
本来は男ばかりの出演者だが五代目小さん師が酒屋の女将さんを登場するように工夫したそうです。高座によってはそのバージョンで演じた事もあるそうです。その方が噺が柔らかくなると考えたそうです。
『能書』
江戸時代、座頭が「座頭金」という高利貸し許されていましたが、返済が滞ると座頭が集団で押し掛けたそうです。これを「催促座頭」と言ったそうです。
『ネタ』
座頭の「市」は盲人の最下級の位で、古くは「都」とか単に「一」と書いたそうです。
一両を本所の総録屋敷に収めると名乗れたそうです。