『宿屋の仇討』
今日はこの噺です。もうやってると思っていたのですが、やってない感じですので。
『原話』
上方落語の「宿屋敵」が三代目小さん師や三代目三木助師によって移植されました。
似た噺に「庚申待ち」がありますが1807年の喜久亭壽暁「滑稽噺」に「甲子茶ぱん」とあります。恐らくこれあたりが元と思われます。
『演者』
東京では三代目三木助師や五代目小さん師を始め柳家の噺家さんが多いですね。
個人的には五代目春風亭柳朝が好きです。また芸協の三遊亭小遊三師も得意根多にしていますね。
『ストーリー』
ある日の相州小田原宿(神奈川宿の場合もあり)。万事世話九朗という名乗る年の頃三十二、三の侍が、武蔵屋という旅籠にやって来ます。(宿屋の名は違う場合あり)侍が言うのには
『昨夜泊まった宿は、親子の巡礼が泣くやら、駆落ち者が夜っぴら話をするわ、相撲取りがいびきをかくやら、全く寝られんかった。今宵はゆっくり寝たい。静かな部屋へ案内して欲しい』
とう申します。伊八に案内されて侍が部屋にあがると、新たな客で江戸っ子の三人連れがやって来て侍の隣部屋に案内されます。三人は部屋にあがるやすぐに、いい酒やいい魚、そして芸者を呼んでのドンチャン騒ぎ。
すると侍の部屋からポンポンと手が鳴って伊八が呼ばれます。
『泊まる時に言ったよな。うるさくて寝られん。静かな部屋と替えてくれ』
しかし困った事に、全室がふさがっていて部屋が替えられない。
仕方がないので伊八が、隣部屋に行き隣部屋のお客様から苦情が出てますのでお静かにお願いしたいと伝えると、江戸っ子、
「その野郎を連れてこい!」
と息巻いたが、相手が侍と分かると相手が悪いと布団でも敷いて寝るとするかと静かになります。
しかしそれも束の間、相撲の話に花が咲き、一人が行司になってとうとう組み合いの相撲が始まってしまいます。ドタンバタン!
またも手が鳴る。また伊八が侍に呼ばれます。
同じように注意して静かになった三人ですが、暫くすると今度は色事の話を始めます。
源兵衛が言うには、川越(高崎の場合もあり)に行った時の事、伯父さんの小間物屋を手伝っていたのだが、仕事で出入りしていた武家屋敷で石坂段右衛門のご新造と深い仲になってしまったと言います。
ある日の事。その密会現場を段右衛門の弟に目撃され、庭に逃げたところ追ってきた弟が滑って転び刀が転がった。それを拾って斬ってしまうと、ご新造が箪笥(たんす)から百両の金を出して一緒に逃げようと言う。足手まといになると感じた源兵衛はご新造も斬り捨て逃げたのだと……。
三年経った今も露見していないから逃げきれたな。なんて話をすると他の二人は源ちゃんは色事師だと囃し始めます。
再び手が鳴りますが、今度はどうも事情が違います。
『拙者、万事世話九朗というのは世を忍ぶ仮の名。実の名は石坂段右衛門。妻と弟の仇を求めて三年。遂にその仇が隣の部屋にいる事が分かった。自分が隣部屋に赴くか、源兵衛が斬られに来るか返事を聞いてまいれ』
伊八から話を聞いた源兵衛は、「
いや、あの話は聞いた話をしただけで、自分の話ではない」
と白状したのだが、侍は聞く耳を持ちません。
「宿屋では迷惑になるから、明日宿屋のはずれで仇を討とう」
という事になり、さらに
「一人でも逃がせば当家は皆殺しにする」
と脅します。
仕方がないので、伊八は宿の若い衆と三人を縛りあげ、一睡もせず見張り朝を迎えます。
さて翌朝。何事も無かったかのように出発しようとする侍に、伊八は
「昨夜の仇の一件はどうしました?」
と尋ねると侍は。
『あぁ、昨夜のあれか、ははは。あのくらい申しておかんと拙者が夜っぴら寝られん』
【注目点】
やはりここは侍の怖さが大事ですね。ここが甘いと噺自体が甘くなってしまいます。
『能書』
「芝浜」で有名な三代目三木助師ですが、自分では「芝浜」よりもこの噺の方が自信があったそうで、芸術賞を貰った後の東横落語会では見事な高座を披露したそうです。
『ネタ』
昔の大店には庚申の夜には親類縁者や出入りの者、職人を接待する風習があったそうです。
今日はこの噺です。もうやってると思っていたのですが、やってない感じですので。
『原話』
上方落語の「宿屋敵」が三代目小さん師や三代目三木助師によって移植されました。
似た噺に「庚申待ち」がありますが1807年の喜久亭壽暁「滑稽噺」に「甲子茶ぱん」とあります。恐らくこれあたりが元と思われます。
『演者』
東京では三代目三木助師や五代目小さん師を始め柳家の噺家さんが多いですね。
個人的には五代目春風亭柳朝が好きです。また芸協の三遊亭小遊三師も得意根多にしていますね。
『ストーリー』
ある日の相州小田原宿(神奈川宿の場合もあり)。万事世話九朗という名乗る年の頃三十二、三の侍が、武蔵屋という旅籠にやって来ます。(宿屋の名は違う場合あり)侍が言うのには
『昨夜泊まった宿は、親子の巡礼が泣くやら、駆落ち者が夜っぴら話をするわ、相撲取りがいびきをかくやら、全く寝られんかった。今宵はゆっくり寝たい。静かな部屋へ案内して欲しい』
とう申します。伊八に案内されて侍が部屋にあがると、新たな客で江戸っ子の三人連れがやって来て侍の隣部屋に案内されます。三人は部屋にあがるやすぐに、いい酒やいい魚、そして芸者を呼んでのドンチャン騒ぎ。
すると侍の部屋からポンポンと手が鳴って伊八が呼ばれます。
『泊まる時に言ったよな。うるさくて寝られん。静かな部屋と替えてくれ』
しかし困った事に、全室がふさがっていて部屋が替えられない。
仕方がないので伊八が、隣部屋に行き隣部屋のお客様から苦情が出てますのでお静かにお願いしたいと伝えると、江戸っ子、
「その野郎を連れてこい!」
と息巻いたが、相手が侍と分かると相手が悪いと布団でも敷いて寝るとするかと静かになります。
しかしそれも束の間、相撲の話に花が咲き、一人が行司になってとうとう組み合いの相撲が始まってしまいます。ドタンバタン!
またも手が鳴る。また伊八が侍に呼ばれます。
同じように注意して静かになった三人ですが、暫くすると今度は色事の話を始めます。
源兵衛が言うには、川越(高崎の場合もあり)に行った時の事、伯父さんの小間物屋を手伝っていたのだが、仕事で出入りしていた武家屋敷で石坂段右衛門のご新造と深い仲になってしまったと言います。
ある日の事。その密会現場を段右衛門の弟に目撃され、庭に逃げたところ追ってきた弟が滑って転び刀が転がった。それを拾って斬ってしまうと、ご新造が箪笥(たんす)から百両の金を出して一緒に逃げようと言う。足手まといになると感じた源兵衛はご新造も斬り捨て逃げたのだと……。
三年経った今も露見していないから逃げきれたな。なんて話をすると他の二人は源ちゃんは色事師だと囃し始めます。
再び手が鳴りますが、今度はどうも事情が違います。
『拙者、万事世話九朗というのは世を忍ぶ仮の名。実の名は石坂段右衛門。妻と弟の仇を求めて三年。遂にその仇が隣の部屋にいる事が分かった。自分が隣部屋に赴くか、源兵衛が斬られに来るか返事を聞いてまいれ』
伊八から話を聞いた源兵衛は、「
いや、あの話は聞いた話をしただけで、自分の話ではない」
と白状したのだが、侍は聞く耳を持ちません。
「宿屋では迷惑になるから、明日宿屋のはずれで仇を討とう」
という事になり、さらに
「一人でも逃がせば当家は皆殺しにする」
と脅します。
仕方がないので、伊八は宿の若い衆と三人を縛りあげ、一睡もせず見張り朝を迎えます。
さて翌朝。何事も無かったかのように出発しようとする侍に、伊八は
「昨夜の仇の一件はどうしました?」
と尋ねると侍は。
『あぁ、昨夜のあれか、ははは。あのくらい申しておかんと拙者が夜っぴら寝られん』
【注目点】
やはりここは侍の怖さが大事ですね。ここが甘いと噺自体が甘くなってしまいます。
『能書』
「芝浜」で有名な三代目三木助師ですが、自分では「芝浜」よりもこの噺の方が自信があったそうで、芸術賞を貰った後の東横落語会では見事な高座を披露したそうです。
『ネタ』
昔の大店には庚申の夜には親類縁者や出入りの者、職人を接待する風習があったそうです。