TKY200905300096今日は趣向を変えまして、藪先生のブログで三遊協会が存続したいたら?と言う話がでまして、小説にしたら面白いかもと言われましたので、不肖私hajimeが小説らしきものを書いてみました。
話としては発端の処です。
続きは考えていません。
思いつきの妄想小説なので、出来や公証はめちゃくちゃです。それでも良ければ読んでみてください。


「それじゃ、後は頼みましたよ」
そう言って圓生は三人の中堅噺家に見送られながら、玄関を後にした。
三人は圓生が達者に神楽坂の階段を降りて行くのを見送りながら
「さて、飲み直そうか」
誰が言ったか判らないが皆同じ気持ちだったのだろう。異論は無かった。

「お姉さん、お酒ね。適当に持って来て」
今日の幹事の圓楽が陽気に言うと中居は笑顔で下がって行った。
「なあ、強次、圓生師匠はああ言ってたが、俺に副会長の座、譲れよ!」
いきなりの注文は談志である。
強次とは古今亭志ん朝の本名である。

この日、圓楽、談志、志ん朝に加えて落語界の重鎮圓生はある秘密の会合を持っていたのだ。
それは……
「いや、兄さん、それはマズイよ、師匠は私にって先ほども言って帰って行ったばかりだし」
「だから、お前が辞退すれば、代わりに俺がやると言うんだよ」
「でも……こういっちゃ失礼だけど、私は噺では兄さん方に負けるとは思っていない。だから香盤を飛び越えて真打になれたのだと思う」
「どうしても駄目か、ああ」
「そうですね……」
「なら仕方あるめえ、これまでだ」
そう言って出て行こうとする談志に向かって圓楽が
「由ちゃん、ちょっとお持ちよ。急いで帰る必要は無いよ」
「何だい全さん、何か良い知恵でもあるのかい。こいつはどうしてもウンと言わないんだぜ」
「だからさ、師匠は、副会長は強次と言ったかも知れないけど、何もその通りにしなくても良いじゃ無いか」
意味ありげな圓楽の表情に談志は何かを見つけた様だ。
「聴こうじゃ無いか、全さんの考えを」
全さんとは圓楽の前座名、全生から来ている。本名の寛海では硬すぎるからだ。
「つまりさ、会長は一人と決まってる。これは師匠さ」
「それは判ってる。その次だ」
せっかちな談志は先を早く聞きたがっているが、圓楽はその様子も楽しんでいる感じだ。

「つまりね、副会長を我々3人にすれば良いのさ」
「はあ? そんな事許されるのかい」
「そうですよ。第一圓生師匠が何と言うか……」
驚く談志に不安がる志ん朝。対照的である。
「それぞれに役割を与えれば良いじゃ無いか!」
「役割?たとえば?」
談志がこの話に食いついた様だと圓楽はおもむろに話始める。
「つまりね、それぞれ得意な分野で勤めれば良いと思うのさ」
中居さんが持って来た熱燗を談志と志ん朝の盃に注ぎながら
「強ちゃんは会長の師匠をサポートする役目をちゃんとやって貰う」
「それから由ちゃんは対外的な事を全て仕切るのさ」
「対外的な事?」
「ああ、主にマスコミ向けの分野さ。これからはマスコミ受けがしなけりゃ『三遊協会』だっておぼつかないさ。だからそれが大事になって来る。それが出来るのは由ちゃん、あんたが最適だ。政治力もあるし、何より目立つから、注目を集め易い」
「なるほど……考えたな……で、全さん、あんたは何をやるんだい?」
「わたしはね、圓生一門に睨みを利かすさ」
談志と志ん朝は顔を見合わせて
「圓生一門は一枚岩じゃ無いのかい?」
「それはマズイんじゃ無いですか」
それぞれに口にしたが、圓楽は
「いやね、弟子全部に話してる訳じゃ無いんだ。小煩そうなのは事後承諾としてるんでね。その口封もやらないとね」
「全さん、あんた思ったより策士だね」
談志がそう言って笑い、酒を圓楽の盃に注いだ。

圓楽は飲めないながらも、それをゆっくりと飲み干すと
「実はね、師匠が橘家一門に何故声を掛けたか判るかい?」
「いや、単に人気者の円鏡目当てじゃ無いのかい?」
談志は興味なさそうに返事をする。
「とんでも無い!重大な意味があるのさ」
「ほう……それは訊きたいな」
志ん朝も「何なんですか?」
とこちらも興味を示していた。
「つまりね、圓生を次ぐ者は代々圓蔵を継いでいるんだよ。圓蔵と言う名は三遊亭の出世名だ。
それが仕方無いとは言え、縁もゆかりも無い一門に持って行かれたままだ」
「師匠はあの一門を三遊協会に取り込んで、ゆくゆくは円鏡に別な名を与えて、圓蔵の名を返して貰う腹積もりじゃ無いかと思っているんだ」
「なるほど……考えたな圓生師匠……」
「だから三平さんには興味を示さなかったのか……」
談志は圓楽の深い読みに感心をしていた。

「どうだい、さっきの副会長3人案は?」
「俺は気に入った。構わないよ。やってくれ!」
「私もそれで構いません」
談志、志ん朝とも賛成をした。
「じゃあ、三遊協会の前途を祝して乾杯しよう」
圓楽の音頭で盃を交わした。
「我々三人は離れていては良く無いと思っている」
圓楽は安堵した様につぶやいた。

後に落語界最大の騒動となるその前夜の話でした。

お粗末様でした〜(^^)