皆様、あけましておめでとう御座います。本年も宜しくお願い致します。
と言う事で、お目出度い噺を。
今日は「かつぎ屋」です。
これは元は「しの字嫌い」が変形したものと言われています。
最古とみられる原典は、寛永5年刊の安楽庵策伝著「醒睡笑」巻一の、「祝ひ過ぎるも異なもの」と題した一連の小咄と言われています。
呉服屋の五兵衛だんなは、大変な縁起かつぎ。
元旦早々、番頭始め店の者に、
「元旦から仏頂面をしていては縁起がよくない」
「二日の掃き初めが済まないうちに、箒(ほうき)に触るのはゲンが悪い」
と、うるさく説教してまわるうち、飯炊きの作蔵がのっそりと現れた。
「魔除けのまじないになるから、井戸神さまに橙(だいだい)を供えてこい」
と、言いつける。
「ただ供えるんじゃない。歌を添えるんだ。
『新玉の年立ち返るあしたには若柳水を汲みそめにけり、これはわざとお年玉』。
いいか」
間もなく、店中で雑煮を祝う。
そこへ作蔵が戻ってきた。
「ご苦労。橙を供えてきたか」
「りっぱにやってきたでがす」
「何と言った」
「目の玉のでんぐりげえる明日には末期の水を汲みそめにけり、これはわざとお入魂」
「ばか野郎」
ケチを付けられて、だんなはカンカン。
そこで手代が、餅の中から折れ釘が出てきたのは、
金物だけに金がたまるしるしと、おべんちゃら。
作蔵が、またしゃしゃり出た。
「そうでねえ。身上を持ちかねるというこんだ」
そうこうするうち、年始客が来だしたので、
だんな自ら、書き初めのつもりで記帳する。
伊勢屋の久兵衛というと長いからイセキュウというように、
縮めて読み上げるよう言いつけたはいいが、
アブク、シブト(死人)、ユカンなど、縁起でもない名ばかり。
それぞれ、油屋久兵衛、渋屋藤兵衛、湯屋勘兵衛を縮めたものだから、
怒るに怒れない。
そこへ現れたのが、町内の皮肉屋・次郎兵衛。
ここのだんながゲンかつぎだから、
一つ縁起の悪いことを並べ立て、嫌がらせをしてやろうという趣向。
案の定、
友達が首をくくって死んだので弔いの帰りだの、
だんながいないようだが、元旦早々おかくれになったのは気の毒だだのと、好き放題に言った挙げ句、
「いずれ湯灌場で会いましょう。はい、さようなら」
だんなはとうとう寝込んでしまう。
なお悪いことに、ゲン直しに呼んだはずの宝船絵売りが、値段を聞くと一枚シ文、百枚シ百文と、シばかりを並べるので、いらないと断ると、「あなたの所で買ってくれなきゃ、一家で路頭に迷うから、
今夜こちらの軒先を借りて首をくくるから、そう思いねえ」と脅かされて、踏んだり蹴ったり。
次に、また別の宝船屋。
今度は、いろいろ聞くと家が長者町、名は鶴吉、子供の名は松次郎にお竹と、うって変わって縁起がいいので、だんなは大喜び。
たっぷり祝儀をはずむ。
「えー、ごちそうに相なりまして、お礼におめでたい洒落を」
「うん、それは?」
「ご当家を七福神に見立てましょう。
だんなのあなたが大黒柱で大黒様、お嬢さまはお美しいので弁天さま」
「うまいねえ、それから?」
「それで七福神で」
「なぜ?」
「あとは、お店が呉服(五福)屋さんですから」
正月になると、宝船売りが、七福神の乗った船の図に、廻文歌
「長き夜のとをのねぶりの皆目覚め波のりぶねの音のよきかな」
を書き添えた刷り物を売り歩きました。
そんな事も入ってる噺なので、お正月向きですね。
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と言う事で、お目出度い噺を。
今日は「かつぎ屋」です。
これは元は「しの字嫌い」が変形したものと言われています。
最古とみられる原典は、寛永5年刊の安楽庵策伝著「醒睡笑」巻一の、「祝ひ過ぎるも異なもの」と題した一連の小咄と言われています。
呉服屋の五兵衛だんなは、大変な縁起かつぎ。
元旦早々、番頭始め店の者に、
「元旦から仏頂面をしていては縁起がよくない」
「二日の掃き初めが済まないうちに、箒(ほうき)に触るのはゲンが悪い」
と、うるさく説教してまわるうち、飯炊きの作蔵がのっそりと現れた。
「魔除けのまじないになるから、井戸神さまに橙(だいだい)を供えてこい」
と、言いつける。
「ただ供えるんじゃない。歌を添えるんだ。
『新玉の年立ち返るあしたには若柳水を汲みそめにけり、これはわざとお年玉』。
いいか」
間もなく、店中で雑煮を祝う。
そこへ作蔵が戻ってきた。
「ご苦労。橙を供えてきたか」
「りっぱにやってきたでがす」
「何と言った」
「目の玉のでんぐりげえる明日には末期の水を汲みそめにけり、これはわざとお入魂」
「ばか野郎」
ケチを付けられて、だんなはカンカン。
そこで手代が、餅の中から折れ釘が出てきたのは、
金物だけに金がたまるしるしと、おべんちゃら。
作蔵が、またしゃしゃり出た。
「そうでねえ。身上を持ちかねるというこんだ」
そうこうするうち、年始客が来だしたので、
だんな自ら、書き初めのつもりで記帳する。
伊勢屋の久兵衛というと長いからイセキュウというように、
縮めて読み上げるよう言いつけたはいいが、
アブク、シブト(死人)、ユカンなど、縁起でもない名ばかり。
それぞれ、油屋久兵衛、渋屋藤兵衛、湯屋勘兵衛を縮めたものだから、
怒るに怒れない。
そこへ現れたのが、町内の皮肉屋・次郎兵衛。
ここのだんながゲンかつぎだから、
一つ縁起の悪いことを並べ立て、嫌がらせをしてやろうという趣向。
案の定、
友達が首をくくって死んだので弔いの帰りだの、
だんながいないようだが、元旦早々おかくれになったのは気の毒だだのと、好き放題に言った挙げ句、
「いずれ湯灌場で会いましょう。はい、さようなら」
だんなはとうとう寝込んでしまう。
なお悪いことに、ゲン直しに呼んだはずの宝船絵売りが、値段を聞くと一枚シ文、百枚シ百文と、シばかりを並べるので、いらないと断ると、「あなたの所で買ってくれなきゃ、一家で路頭に迷うから、
今夜こちらの軒先を借りて首をくくるから、そう思いねえ」と脅かされて、踏んだり蹴ったり。
次に、また別の宝船屋。
今度は、いろいろ聞くと家が長者町、名は鶴吉、子供の名は松次郎にお竹と、うって変わって縁起がいいので、だんなは大喜び。
たっぷり祝儀をはずむ。
「えー、ごちそうに相なりまして、お礼におめでたい洒落を」
「うん、それは?」
「ご当家を七福神に見立てましょう。
だんなのあなたが大黒柱で大黒様、お嬢さまはお美しいので弁天さま」
「うまいねえ、それから?」
「それで七福神で」
「なぜ?」
「あとは、お店が呉服(五福)屋さんですから」
正月になると、宝船売りが、七福神の乗った船の図に、廻文歌
「長き夜のとをのねぶりの皆目覚め波のりぶねの音のよきかな」
を書き添えた刷り物を売り歩きました。
そんな事も入ってる噺なので、お正月向きですね。
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