17a522e1『元犬』
 今日はこの噺です
楽しい噺で、今でもよく寄席に掛かります。

『原話』
原話は、文化年間に出版された笑話本「写本落噺桂の花」の一編である「白犬の祈誓」だそうです。

『演者』
志ん生師を始め色々な噺家さんが演じます

『ストーリー』
蔵前八幡の境内に1匹の純白の野良犬が参詣客に大変可愛がられていました。
 参拝客の一人から「しろ、おまえのような純白な犬は人間に近いという。次の世には人間になるのだぞ」と言われ続けていた。
しろも考えて、人間に御利益があるのなら、この俺にだって叶うはずと、三・七、21日の裸足参り。満願の日風が吹いてくると、体中の毛が抜けて人間になったのですが、素っ裸で立っていると、上総屋の吉兵衛さんに出会い、話をして羽織を着せて貰い店まで連れていって貰います。
 部屋に上がれと言えば、汚い足で上がろうとし、雑巾で足を拭いてからと言えば、口にくわえて振り回すし、女房を紹介すれば、「知ってます。こないだ台所に来たら、水をぶっかけられた」。女房と相談して、とぼけた人が良いという、ご隠居に紹介することにしました。そこで、着物も着込んで出掛けようとすれば、履き物を四つ足に履いてしまう始末。お隠居の所に着いて、待たせている彼を呼ぶと、玄関の敷居に顎を乗せて寝ちゃているので、大慌て、何とか紹介して、吉兵衛さんはさっさと帰って仕舞います。そこで御隠居、「生まれは?」
「蔵前の掃き溜めの裏で生まれた」
「え!・・そうか、卑下をして言うとは偉い」
「両親は?」
「両親て何ですか」
「男親は?」
「あー、オスですか」
「オイオイ」
「鼻ずらの色が似ているからムクと違うかと思います」
「女親は?」
「メスは毛並みが良いと、横浜から連れられて、外国に行っちゃいました」
「ご兄弟は?」
「三匹です。一匹は踏みつぶされてしまいました。もう一匹は咬む癖があるので、警察に持って行かれました」
「お前さんの歳は?」
「三つです」
「そうか、二十三位だろうナ」
「名前は?」
「しろ、です」
「白〇〇と有るだろう」
「いえ、只のしろです」
「そうか、只四郎か、イイ名前だ」
「お前がいると、夜も気強い」
「夜は寝ません。泥棒が来たら、向こうずねを食らいついてやります」
「気に入った。居て貰おう。ところで、のどが渇いたから、お茶にしよう。チンチン沸いている鉄瓶の蓋を取ってくれ、・・・早く」
「ここでチンチンするとは思わなかった」
 と犬の時のチンチンをします。
「用が足りないな。ほうじ茶が好きだから、そこの茶ほうじを取ってくれ。茶ほうじダ」「?」
「茶ほうじが分からなければ、ほい炉。ホイロ」「うー〜」
「ホイロ!」
「ワン」
「やだね。(女中の)おもと〜、おもとは居ないか、もとはいぬか?」
「今朝ほど人間になりました」


【注目点】
志ん生師は上総屋の旦那が、しろを犬だとは知らない設定ですが、戦後この噺をよく高座に掛けた八代目柳枝師は、全て旦那が知ってる設定でした。
だから、上総屋の旦那のハラハラがこちらにも伝わってきました。
今は殆ど、知らない方ばかりが高座に掛かりますね。誰かやらないかな?

『能書』
現代では「焙炉」が既に判らなくなっていますので演者は結構苦労するようです。
「炮烙」と言い換えたりしてるようですね。

『ネタ』
あんまり難しい事は知らないのですが、この噺は、仏教の輪廻転生を少しもじった感じがします。
普通は悪い事をした人間が畜生に転生させられるという話が多いですが、これは逆ですね。
これは凄い発想だと思います。