20150701214715『酢豆腐』
 今日は夏の噺の「酢豆腐」です。
 尤も最近では本当にそういう名の豆腐料理があるかの如く扱う所がありますが、本来はそんな料理はありません。ある辞典にはちゃんと載ってしまっていますが、これは編集者が石頭なのでしょうね。

『原話』
原話は、1763年(宝暦13年)に発行された『軽口太平楽』の一遍の「酢豆腐」と言う話。
これを、初代柳家小せん師、(あの盲の小せんですね)が落語として完成させました。
ですので、この噺を大正の初め頃だという方もいます。
歴史家の方によれば、庶民の生活は関東大震災までは、電気が点いても、汽車が走っても、
そう変わり無かったそうです。のんびりとした時代だったのですね。

『演者』
小せん学校に通っていた六代目圓生師や黒門町、志ん朝師などに引き継がれました。今では多くの噺家さんが演じています。

『ストーリー』
ある夏の昼下がり。暇な若い衆が寄り集まり暑気払いの相談をしていますが、江戸っ子たちには金がありません。
 困った一同、酒はどうにか都合するとしても(これもいいかげん)、ツマミになる肴が欲しいので必死に考えますが良いアイデアが浮かびません。知恵者が「糠味噌桶の糠床の底に、古漬けがあるだろう。そいつを刻んで、かくやの香こはどうだい?」
と妙案を出しますが、古漬けを引き上げる者は誰もいません。
 困ってしまった時に運良く(悪く)たまたま通りかかった半公をおだてて古漬けを取らせようとしますが、結局駄目ですが肴を買う金銭を巻き上げます。
 その時、与太郎が昨夜豆腐を買ってあったのを出して来ます。でも豆腐は夏場にもかかわらず、鼠入らずの中にしまったせいで、腐ってしまっていました。手遅れの豆腐を前に頭をかかえる一同。
 と、家の前を伊勢屋の若旦那が通りかかります。この若旦那、知ったかぶりの通人気取り、気障で嫌らしくて界隈の江戸っ子達からは嫌われ者。シャクだからこの腐った豆腐を食わせてしまおうと一計を案じます。
 呼び止めておだて上げて引き入れ、
「舶来物の珍味なんだが、何だかわからねえ。若旦那ならご存知でしょう」
 と腐った豆腐を出します。すると若旦那は知らないとも言えず
「これは酢豆腐でげしょう」
 と知ったかぶる。うまいこともちあげられた末に食べることになります。もう目はぴりぴり、鼻にはツンとしながらとうとう食べます。何とも言い難い表情。
「いや食べたね。偉いね若旦那、もう一口如何ですか?」
「いや、酢豆腐は一口に限りやす」

【注目点】
この噺に出てくる「かくやのこうこ」は美味しいですよね。
飯に良くて酒に良い!と文句はありません。
糠だって、ちゃんとかき混ぜていれば、臭く無いんですよ。
私なんか商売上、糠味噌は別にイヤじゃ無いので、ここまで嫌われると、
糠味噌が可哀そうに思えてきます。
 この噺を聴いていて思うのは、のんびりとした時代だったと言う事ですねえ。
我々が忘れてしまった世界なのかも知れません。

『能書』
この噺が初代柳家小はんと言う方が上方へ持って行って「ちりとてちん」が生まれました。
でも私はは「ちりとてちん」よりこちらの方が好きです。
夏の暑い盛り、いい若者が皆で集まってクダまいててという設定からして好きですね。
それに最後は若旦那を仲間として認める処が好きですね。
若旦那も「「いやあ、酢豆腐は一口にかぎる」と粋に言って逃げるのも上手いですね。
長屋の皆も「若旦那大した者だ!」と言って褒めていますね。
きっと、これで若旦那は皆の仲間になれたと思うのです。
皆も認めたと言う意味でですね。

『ネタ』
落語を解説しているサイトでもこの噺と「寄合酒」を混同している所がありますが、
元々の噺が違うので、間違いですね。
「寄合酒」は「ん廻し」(田楽喰い)に繋がる噺ですからね。

個人的にはこの後「羽織の遊び」に繋がると思っています。