87304『木乃伊取り』
 今日はこの噺です

『原話』
舞台が吉原なので古くからの江戸落語ですね。

『演者』
正蔵師や圓生師が得意にしていました。
談志師や小三治師等も高座に掛けていました。

『ストーリー』
道楽者の若だんなが、今日でもう四日も帰りません。
心配した大旦那、番頭の佐兵衛を吉原にやって探らせると、江戸町一丁目の「角海老」に居続けしていることが判明。番頭が
「何とかお連れしてきます」
 と出ていったがそれっきり。五日たっても音沙汰なし。大旦那は
「あの番頭、せがれと一緒に遊んでるんだ。誰が何と言っても勘当する」
 と怒ると、お内儀が
「一人のせがれを勘当してどうするんです。鳶頭ならああいう場所もわかっているから、頼みましょう」
 ととりなすので呼びにやります。鳶頭は、
「何なら腕の一本もへし折って」と威勢よく出かけるのですが、途中で幇間の一八につかまり、しつこく取り巻くのを振り切って角海老へ。
若旦那に
「どうかあっしの顔を立てて」
と掛け合っているところへ一八が
「よッ、かしら、どうも先ほどは」
 あとはドガチャカで、これも五日も帰ってこないと言う有様。
「どいつもこいつも、みいら取りがみいらになっちまやがって。今度はどうしても勘当だ」
と大旦那はカンカンになります。
「だいたい、おまえがあんな馬鹿をこさえたからいけないんです」と、夫婦でもめていると、そこに現れたのが飯炊きの清蔵。
「おらがお迎えに行ってみるべえ」と言いだします。
「おまえは飯が焦げないようにしてりゃいい」と言っても
「仮に泥棒が入ってだんながおっ殺されるちゅうとき、台所でつくばってるわけにはいかなかんべえ」
と聞き入れません。
「首に縄つけてもしょっぴいてくるだ」と、手織り木綿のゴツゴツした着物に色の褪めた帯、熊の革の煙草入れといういでたちで勇んで出発します。
吉原へやって来ると、若い衆の喜助を「若だんなに取りつがねえと、この野郎、ぶっ張りけえすぞ」
と脅しつけ、二階の座敷に乗り込みます。
「番頭さん、あんだ。このざまは。われァ、白ねずみじゃなくてどぶねずみだ。
鳶頭もそうだ。この芋頭」と毒づき、
「こりゃあ、お袋さまのお巾着だ。勘定が足りないことがあったら渡してくんろ、
せがれに帰るように言ってくんろと、寝る目も寝ねえで泣いていなさるだよ」
と泣くものだから、若だんなも大弱り。
 あまり云うので、「何を言ってやがる。てめえがぐずぐず言ってると酒がまずくなる。帰れ。暇出すぞ」
と意地になってタンカを切ると、清蔵怒って
「暇が出たら主人でも家来でもねえ。腕づくでもしょっぴいていくからそう思え。こんでもはァ、村相撲で大関張った男だ」と腕を捲くる始末です。そこまで云われたら若旦那は降参です。
 一杯呑んで機嫌良く引き揚げようと、清蔵に酒をのませます。
もう一杯、もう一杯と勧められるうちに、酒は浴びる方の清蔵、すっかりご機嫌。
頃合いを見て、若旦那の情婦のかしく花魁がお酌に出ます。
「おまえの敵娼に出したんだ。帰るまではおまえの女房なんだから、可愛がってやんな」と若旦那。
花魁は「こんな堅いお客さまに出られて、あたしうれしいの。ね、あたしの手を握ってくださいよ」
としなだれかかってくすぐるので、
清蔵はもうデレデレ。
「おい番頭、かしくと清蔵が並んだところは、似合いだな」
「まったくでげすよ。鳶頭、どうです?」
「まったくだ。握ってやれ握ってやれ」
三人でけしかけるから、
「へえ、若旦那がいいちいなら、オラ、握ってやるべ。ははあ、こんだなアマっ子と野良ァこいてるだな、帰れっちゅうおらの方が無理かもすんねえ」
「おいおい、清蔵、そろそろ支度して帰ろう」
「あんだ? 帰るって? 帰るならあんた、先ィお帰んなせえ。おらもう二、三日ここにいるだよ」

【注目点】
何しろ登場人物が多いので演者は大変です。そこを上手く演じ分け出来ているかですね。
圓生師は全て演じ分けていたので感心されたそうです。

『能書』
落語にしばしば登場する「角海老(かどえび)」は、江戸時代は「海老屋」と言い、吉原でも屈指の大見世で、
有名な見世でした。
「角海老」と称するようになったのは明治からです。
今でも色々とその名前のついたのがありますね。

『ネタ』
途中で頭が一八と会うのが日本堤でして、これは江戸を洪水から守る為に、
日本中の大名を動員して作らせた堤防でした。