三枚起請『三枚起請』
今日は「三枚起請」です。

【原話】
元々は上方落語で、初代三遊亭円右師が舞台を吉原遊郭に直して東京に持ち込んだと言われています。
1861年の桂松光師のネタ帳に「三まいぎしょう 但シわたしやからすとむこずらじや」とあるそうです。

【ストーリー】
棟梁が猪之さんを呼び付けて、女遊びをたしなめると、猪之さんは、遊びじゃないと言い張ります。
「年季が明けたら夫婦になる」と記した起請文を見せるのですが、
 これを見た棟梁は、この喜瀬川って花魁は、小太りで黒子があると言い当てます。驚く猪之さんに、実は、棟梁も同じ起請を持っていた事を告白します。
 通りかかった清公が首を突っ込んで来ましたが、二十両の金を工面した結果として、やはり同じ起請を持っていることが分かります。
 嘘つき花魁を懲らしめようと、三人で吉原のお茶屋に行き、猪之さんは押入れに、清公は衝立の裏に隠れて、棟梁が一人で花魁を待つ事にします。
「起請文? 棟梁にしか差し上げていませんよ。他の人には…」
「建具屋の半七には?」
「半七? どちらの…知ってますわよ、そんなに睨まないで。確かにお知り合いではありますけど、起請を送った事は在りませんわ。あんな『水瓶に落ちたおマンマ粒』みたいに太った…」
「『水瓶に落ちたおマンマ粒』、出といで…」
 納戸の中から半七が登場します。
「アララ、いらっしゃったの…?」
「こいつだけじゃねぇだろ。三河屋の新之助にも…」
「知らないよ。あんな『日陰の桃の木』みたいな奴…」
「『日陰の桃の木』、こちらにご出張願います」
「やいっ、誰が『日陰の桃の木』だ」
「アアラ、ちょいと、新さん、様子がいいねえ」
「調子に乗るんじゃねえ」
 言い逃れできなくなった喜瀬川ですが、このまま引き下がっては、花魁の名が廃るとばかりに・・・
「ふん! 大の男が三人も寄って、こんな事しか出来ないのかい。はばかりながら、女郎は客をだますのが商売さ。騙される方が馬鹿なんだよ」
「何だとこの野郎!!」
「嫌で起請を書くと熊野で烏が三羽死ぬと言うんだぞ!」
「そうかい、わたしゃ、嫌な起請をどっさり書いて、世界中の烏を殺してやりたいね」
「烏を殺してどうする」
「ゆっくり朝寝がしてみたい」


【演者】
志ん生師を始め色々な噺家さんが演じています。

『能書き』
「起請」とは、神仏に固く誓うこと。その誓いを文書に記したものが「起請文」で、熊野権現が発行する護符の裏に記すのが通例とされていました。(画像右、この裏に起請の文を書きます)
歴史は古く、平安時代にはすでにあり、「平家物語」にも記されています。
偽りの起請文を書く者は神仏の罰を受けるとされ、また熊野権現の使いである烏が三羽死ぬと言い伝えられました。
一般社会ではとうに目にしなくなったものですが、遊廓にはその慣習が残り、男女が添い遂げることを固く誓う文書として使われた様です。
花魁にとっては客商売の小道具にすぎないものですが、これを貰った男たちはすっかりアツくなって騙されていますね。騙された男たちの人物像が三者三様で違うのも面白い処です。

『注目点』
この噺はこの起請文と言うモノが判ってないとサゲも面白く無いのですが、この噺もゆくゆくはサゲが変えられるかな?
そうなったら、寂しいですね。

ネタ』
この噺のオチですが、これは都々逸の「三千世界の烏を殺し、主と朝寝がしてみたい」から来ています。ここに来られる方はご存知でしょうが、中には知らない方もいるかも知れないので、ここに書いておきます。