6fdfc8e6『三方一両損』
今日は、「三方一両損」と言う江戸っ子の見本みたいな人物が出て来る噺です。

【原話】
文化年間(1804-18)から口演されていた古い噺で、講談の「大岡政談もの」の一部が落語に脚色されたもので、
さらにさかのぼると、江戸初期に父子で名奉行とうたわれた板倉勝重(1545〜1624)・重宗(1586〜1656)の事蹟を集めた「板倉政要」中の「聖人公事の捌(さばき)」が原典だそうです。

【ストーリー】
江戸に住む職人は「宵越しの銭は持たねえ」を信条に生きていました。というのも、腕のある職人は、働けばその日から稼げた時代だったからです。蓄えというものがなくても、みなで助け合ってなんとなく生きていけた。だからお金にこだわるのは恥という感覚が厳然としてありました。
そんな時代に、三両入った財布を拾った左官屋の金太郎。
中に入っていたメモを見ると持ち主は大工の吉五郎らしい。さっそく財布を持って吉五郎の家へ。ところが、届けてくれた気持ちには感謝するが、いったん俺の懐から出た金は俺のものではないから受け取れないと言い張り、金太郎は、拾ったお金を自分のものになんてできない、と意地の張り合いの末、大喧嘩に発展。そこへ仲裁に互いの長屋の大家が割り込み事態はくんずほぐれつ。奉行に解決してもらうことになります。
名奉行と噂の大岡様は、三両に一両足して四両にし、吉五郎に二両、金太郎に二両渡す。
本来なら届けてもらったのをそのまま受け取れば三両になるところ一両損した吉五郎、拾った財布をそのまま自分のものにしていれば三両が懐に入っていたはずの金太郎はそれぞれ一両の損、両者がいらないという三両をそのまま受けとらずに一両足した奉行も一両の損。
でもこれで三方が丸くおさまったわけだから三方一両損だと言う事になります。
さらに大岡様は一同に豪華な食事をご馳走し、その心がけを愛でる。
二人は「今度腹が減ったら喧嘩してここに来ようぜ」と意気投合。
大岡様が二人の大食を心配し「あまり食べ過ぎるなよ」と声をかけると、
「えへへ、多かあ(大岡)食わねえ、たった一膳(越前)」

【演者】
色々な噺家さんが演じています。特に八代目可楽師が得意にしていました。
個人的には二代目文朝師が好きですね。

【注目点】
落語のお奉行さまは、たいてい大岡越前守と決まっていて、主な噺だけでも「大工調べ」「帯久」「五貫裁き」「小間物屋政談」
「唐茄子屋政談」と、その「出演作品」はかなりの数です。

この噺、三人が損?というのは数学でいえば論理トリックなのですが、話の流れから全く矛盾を感じないで納得してしまいます。

『ネタ』
江戸っ子二人の威勢良さと、その二人を裁く奉行が上に立って物事を鎮める様を適切に描けているからこそ楽しめる噺で、その辺りに技術を要します。