3672764f『井戸の茶碗』
 今日はこの噺です。秋の噺かと問われると怪しいのですが……。

【原話】
講談ネタの「細川茶碗屋敷の由来」を落語に移したものと言われています。
志ん生師は一時講談をやっていた事もあるので、その時に仕入れたのでは、と云われています。でも代々の柳枝師に受け継がれていたそうです(初代から三代目は確認が取れています)

【ストーリー】
 麻布茗荷谷に住むくず屋の清兵衛さん、人呼んで正直清兵衛と呼ばれています。
ある時、清正公様脇の裏長屋で器量の良い質素ながら品のある十七,八の娘に呼ばれます。
貧乏浪人の千代田卜斎から普段扱わない仏像を、それ以上に売れたら折半との約束で、二百文で預かります。
 その後、白金の細川家の屋敷で呼び止められ、仏像が気に入ったと、細川家の家来・高木佐久左衛門が三百文で買い上げてくれます。
 高木が仏像をぬるま湯で洗っていると、底に張ってあった紙がはがれ、中から五十両の金が出てきました。
「仏像は買ったが五十両は買った覚えはない。自分の物ではないので、売り主に返してやれ」
と、清兵衛に渡すがのですが、卜斎は、
「売った仏像から何が出ようとも自分の物ではない」
と受け取りません。清兵衛が、高木と卜斎の間を行ったりきたりするがらちがあきません。困った挙げ句家主に相談すると、家主は「高木に二十両、卜斎に二十両、清兵衛に十両」の案を出します。高木は納得するが、どうしても卜斎は納得しません。
 「どんな物でも先方に渡し金を受け取れば、貰った事にはならない」
と、家主が勧め、やっと納得した卜斎はいつも使っている古く茶渋で汚れた茶碗を渡し二十両の金を受け取ります。
 この美談が細川の殿様の耳に入り、「茶碗が見たい」と言う。高木が茶碗をお見せすると、たまたま、出入りの目利きが拝見し、これが何と名器「井戸の茶碗」だと判り、殿様が三百両で買い上げる事になります。
 このお金を見て高木は考え込んでしまいました。清兵衛も困ったが、先例にならい半分の百五十両を卜斎の元に届けると、卜斎も困ったが考えたあげく、
「もう渡す物もない。独身の高木殿は正直なお方の様だから娘を嫁に差し上げ、結納代わりなら金を受け取る」
と、言います。さっそく清兵衛が高木にこの事を伝えて、
「良い娘だからお貰いになりなさい。今は貧乏でひどいナリをしているが、高木様の手で磨いてご覧なさい、美人になりますよ」
 すると高木、
「いやぁ、もう磨くのはよそう。また小判が出るといけない」。

【演者】
今では各一門でも演じますが、古今亭の噺です。

【注目点】
五代目柳朝師はこの噺を演じるにあたって「欲を出さずに演じる事が大事」と語っていました。個人的には圓菊師のが好きです。

『能書』
この登場する「井戸の茶碗」は朝鮮半島で作られた茶碗で、「一井戸、二楽、三唐津」と言われ、古くから最上の茶碗として重宝されたそうです。

『ネタ』
戸詰めの勤番侍の住居は、上屋敷の「長屋」で、二階建てが普通でした。
下は中間や小者が住み、上に主人(武士)が住んでいます。
 行商人等からものを買うときには、表通りに面した高窓から声をかけ、そこからざる等を下ろして品物を引き上げます。これは、「石返し」にも登場します。