tensiki1『転失気』
今日はこの噺。秋の噺の確証はありませんが、なんとなくそんな雰囲気がしますので。

【原話】
かなり古くから演じられている前座噺です。成立はよく判っていません。

【ストーリー】
あるお寺の和尚さんが具合が悪いので医者を呼びます。診察した後で医者が
「和尚、転失気はおありかな?」
 そう尋ねます。和尚は判りませんでしたが「ありません」と答えてしまいます。医者は
「そうですか、それではお薬を出しておきましょう」
と言って、後で薬を取りに来るようにと言って帰ってしまいます。
和尚は自分が知らなかった「転失気」の事が気になって仕方ありません。
そこで小僧の珍念に雑貨屋に行って「てんしき」を借りて来い、無ければ花屋のところへ行くように言いつけます。珍念が雑貨屋に行くと、売り切れてないという。花屋へ行くと、味噌汁に入れて食べてしまったという返事。
困った珍念は寺に帰って珍念は和尚に「てんしき」の意味を聞くが、和尚は自分が教えたのではすぐに忘れてしまうから、医者に薬をもらいに行ってその時に聞いてくるように言います。
そこで医者に訊くと何と「おなら」の事だと教えられます。
驚きながらも、なるほどと納得し、和尚も雑貨屋も花屋も知らないくせに知ったかぶりをしていたのだと判ります。
 寺に戻った珍念は、和尚に、「てんしき」とは「盃」のことでしたと和尚に話します。和尚も、「そうだ、盃のことだ、呑酒器と書くのだ、よく覚えておけ、と言います。
もう珍念はおかしくなってしまいます。
その後医者が来た時に和尚は
「転失気はありました」
 と言います
「それは良かった」
 と医者が言いますが和尚は
「今日は我が寺に伝わるてんしきを、用意してありますので、お目にかけます」
 そういうので医者は驚き
「いやそれには及びません」
 と言うのですが、和尚はむりやり秘蔵の盃を見せます
「ほう医者の方では『転失気』はおならの事を言うのですがお寺では盃の事でしたか」
 と感心します。和尚はここで珍念に騙されたと知りますが後の祭り。そこで仕方なく
「盃を重ねますと、しまいいにはブーブー音が出ます」

【演者】
かっては三代目小さん師が演じ、三代目金馬師が演じていました。
今では殆の噺家さんが演じます。

【注目点】
今では余り演じられませんが、本来は隠居の所にも訊きに行くのですが、
金馬師のバージョンでは出てきません。そのかわり他の部分(花屋さん等)で笑わせています。

『能書』
傷寒論(しょうかんろん)とは、中国・後漢の名医・張仲景が著した古医書です。
江戸時代では漢方医学のもっとも一般的な本でした。

『ネタ』
この「傷寒論」の中に屁の事を「気を転び失う」と出て来るそうです。