oomon今回は八代目文楽師の十八番「明烏」です。
これは凄いです。そして楽しいお噺です!

【原話】
実際の心中事件から題を得て作られた、新内の「明烏夢淡雪」から人物だけを借りて作られた噺で、
滝亭鯉丈と為永春水が「明烏後正夢」と題して人情本という、今でいう艶本小説として刊行。第二次ブームに火をつけると、これに落語家が目をつけて同題の長編人情噺に仕立てました。
その発端が現行の「明烏」です。

【ストーリー】
日向屋の若旦那である時次郎は、一部屋にこもって難解な本ばかり読んでいるような頭の固い若者で、息子の時次郎の将来を心配した親父さんが、町内の源兵衛と多助に頼んで浅草の裏のお稲荷さんにお参りに行くと偽って、吉原に連れていってもらうことにした。
日帰りのお参りではなくお篭もりするようにと、お賽銭として、銭も沢山持たせます。

吉原の大門を鳥居だと言い、巫女さんの家だと偽って女郎屋に連れ込むのですが、そこは店に入るととうとうバレてしまいました。
こんなところにはいられないからと、若旦那が一人で帰るというのを、吉原の決まりとして大門で通行が記録されているので、三人連れで入って一人で出ると怪しまれて大門で止められると嘘で説得して、無理矢理に一晩つきあわせます。
翌朝になって、若旦那が起きてこないので、源兵衛と多助花魁は若旦那の部屋に起こしに行きます。
「若旦那良かったでしょう? さあ帰りましょう」
そう言っても起きてきません。仕方なく花魁に頼むと、
「花魁は口じゃ起きろ起きろというが足で押さえている」
と布団の中でのろけているので馬鹿馬鹿しくなった二人が先に帰ろうと言うと、
若旦那は
「先に帰れるものなら帰りなさい、大門で止められます」

【演者】
もうこれは文楽師が一番と言っても良いですが、文楽師亡き後、色々な噺家さんが演じていますが、極め付きは志ん朝師でしょうね。
文楽師は寄席では初日にこの噺を多く掛けたそうです。

【注目点】
文楽師は寄席でトリを取ると初日は必ずと言って良い程この噺を掛けたそうです。
源兵衛が甘納豆を食べる場面では、寄席の売店で甘納豆が売り切れたというエピソードが残っています。

『能書』
志ん朝師も晩年を除き、この甘納豆のシーンはやりませんでした。代わりに梅干しのシーンに替えていました。それぐらい文楽師の仕草が見事だったという事です。

私なんか正直、志ん朝師の方が文楽師より良いぐらいですが、古い落語ファンの方に云わせると
「文楽の方が遥かにいい!」そうです。何でも決定的な事が志ん朝師の噺には抜けているそうです。ですから、実際の吉原を知らないのは辛いですねえ……これにつては反論出来ませんね。
それだけもう遊郭というものが遠いものになってしまったという事なんですね。(何でも西の方には未だ残ってるということですが……)