img_1529166_32283524_0今日は「猫久」です。

原話は不詳で、幕末の嘉永年間ごろから口演されてきた、古い江戸落語で、明治中期の二代目小さん師が完成させた噺で、それ以来代々小さん師が工夫を重ね現代まで伝わってきました。

 長屋の熊さんの向かいに住んでいる久六は、いつもおとなしく、猫の久六と呼ばれている。
その猫久が、ある日、血相を変えて家に帰ってきて、刀を出せと女房に言いつける、あわてて止めると思いの外、
女房は刀を三度押し戴いてから亭主に渡し、猫久は駆けだして行った。

向かいで一部始終を見ていた熊さんは、床屋に行って、大声で親方にその話しをします。
それを、たまたま奥で聞いていた侍が、それは天晴れ、女の鑑であると感心して、
「よおっく承れ。日ごろ猫とあだ名されるほど人柄のよい男が、血相を変えてわが家に立ち寄り、剣を出せとはよくよく逃れざる場合。また日ごろ妻なる者は夫の心中をよくはかり、これを神前に三ベンいただいてつかわしたるは、
先方にけがのなきよう、夫にけがのなきよう神に祈り夫を思う心底。
見共にも二十五になるせがれがあるが、ゆくゆくはさような女をめとらしてやりたい。
後世おそるべし。貞女なり孝女なり烈女なり賢女なり、あっぱれあっぱれ」
と言われますが、その実よく分かりません。いただく方が本物なんだと感心して、家に帰ります。

すると、かみさんが、イワシイワシとがなり立てるので、さっきの侍の真似をしてやろうと思います。
「オレが何か持ってこいって言ったら、てめえなんざ、いただいて持ってこれめえ」
「そんなこと、わけないよ」
等と言い合っているうち、イワシを本物の猫がくわえていってしまいます。

「ちくしょう、おっかあ、そのその摺粉木でいいから、早く持って来いッ。張り倒してやるから」
「待っといでよう。今あたしゃいただいてるところだ」

この噺のキモは途中で出て来る侍です。
侍の怖さを感じさせないと、この噺は面白くありません。
侍が怖いので熊さんは何だか良く判らないのに、納得したフリをしてしまうのです。
武士と町人は、身分が違ったので、普通は身分が違うから、もとよりふつうに話ができるものではないのですが、江戸時代とはそう云う世界だったという事ですね。

二尺以下なら町人でも護身用に刀を持つことが出来ました。
今日は、春風亭一之輔 さんで聴いて下さい

春風亭一之輔 1978年(昭和53年)1月28日生まれ、本名は川上 隼一 出囃子は「さつまさ」
2001年 - 春風亭一朝に入門、朝左久 2004年11月 - 二つ目に昇進し、「一之輔」と改名
2012年3月 - 真打昇進。文化庁芸術祭大衆芸能部門新人賞受賞。