5001202_s今日は「加賀千代」です。

この噺は、昭和20年代に橘ノ圓都師が創作した新作落語だったのです。
お驚きましたね? え、知ってた?そうですか、私は最近まで知りませんでした。
と言うか、三代目三木助師が演じる噺として認識していました。

 暮れも押し詰まって大晦日なのに金策が出来ていない甚兵衛さんの尻をたたく女房ですが、
無いものはないとケロッとしている亭主に、ご隠居さんの所で借りておいでとけしかけます。
 「ご隠居さんはお前が可愛くてしょうがないから、貸してくれるよ」、「子供でも無いのにかい」、
「犬や猫を可愛がる人は膝に乗せたり胸に入れたり子供以上だ。生き物だけでなく植物だって同じで、朝顔だって同じだよ」、「植木鉢を膝に乗せたり胸に入れたり?」、

「昔、加賀に千代という歌の上手い女性が居た。お殿様の耳に入り伺候(しこう)する事になった」、
「四光は難しいぞ」、「花札と違うよ。殿中に上がりお殿様と対面したら、着物の紋が目に入った。紋は梅鉢であったので句を詠んだ『見やぐれば匂いも高き梅の花』。たいそうお褒めの言葉をいただいた。そのぐらい歌が上手かった」、「朝顔は何処に」、「ある朝、水を汲みに入ったら、井戸端に朝顔が巻き付いて花を咲かせていた。水が汲めないので近所に水をもらいに行った、その時に詠んだ句が『朝顔につるべ取られてもらい水』、朝顔だって可愛がる人が居る。ご隠居さんがお前を可愛がるのに不思議があるか」、「俺は朝顔か」。

 「どれだけ借りてくれば良いんだ」、「20円」、「20円もか。ホントはいくらあれば良いんだ」、
「8円5〜60銭有れば良いんだが、20円と言って『そんなには貸せないから半分』と言われても何とかなるだろが、それを10円貸してくれと言って半分の5円では”帯に短しタスキに長し”だろ。
特に今日は手土産の饅頭を持っていかないとね。手土産を持ってこられたら手ぶらでは帰せないだろ」。
出来た女房に追い出されて、ご隠居の所にやって来ます。

 待っていたから上がれ、上がれと歓待するご隠居さんです。
「様子を見れば分かる。いくら欲しい」、「今月はいつもと違うので、ビックリするな、20円」、
「ビックリするなと言うと120円か」、「話の分からないご隠居さんだな」、「では、220円か」、「怒りますよ」、
「足りなければ本家に電話するから。で、本当はいくらなんだ」、「8円5〜60銭」、「バカ野郎。それなら最初から8円5〜60銭と言いなさい」、「それは素人。最初から8円5〜60銭と言って半額の5円になったら”帯に短しタスキに長し”になってしまう」、「では10円」、「アリガトウ。やっぱり朝顔だ」、「その朝顔とは何だ」、「『朝顔につるべ取られてもらい水』だ」、「チョと待ちなさい。『朝顔につるべ取られてもらい水』?解った。加賀の千代か」、
 「う〜〜ん、嬶(かか)の知恵」。

噺に出て来る加賀の千代とは、江戸中期の女流俳人で、 「朝顔に つるべ取られて もらい水」などの有名な俳句を残しています。最も後で詠み直して「朝顔や」と替えていますが、最初の方が有名です。

この噺はよく聴いてると、謝金を返す噺なので、少なくとも年末だと思います。
あらすじの冒頭で大晦日と一応断っていますが、ここをぼやかせば他の季節でも可能ですね。

私なんかこの噺を聴いてると「鮑のし」を連想してしまいます(^^)



今日は期待の星一之輔さんで聴いて下さい。

春風亭一之輔 1978年(昭和53年)1月28日生まれ、本名は川上 隼一 出囃子は「さつまさ」
2001年 - 春風亭一朝に入門、朝左久 2004年11月 - 二つ目に昇進し、「一之輔」と改名
2012年3月 - 真打昇進。文化庁芸術祭大衆芸能部門新人賞受賞。