img_540000_48914965_0今日は「浮世床」です。
江戸時代の床屋の様子を扱った噺です。
安永2年(1773)刊「聞上手」中の「大太刀」や「春遊機嫌袋」中の「うたゝね」等の小咄をあわせて出来上がった噺です。題は式亭三馬の滑稽本から摂ったものです。

街の床屋は暇を持て余した若い者が今日も今日とて集まっている。手紙を読んでニヤニヤする者、髭を抜く者、寝ている者。退屈しのぎに何をしようかと話し合ってるうちに二人が将棋を始める。ただ普通にやってもつまらないので一手指すごとに洒落を言う、洒落将棋。洒落が言えなければ負け。洒落上手と洒落下手が指していると、あまりの熱の入れようで王を取られても気付かず続けている始末。すると店の主が、あまり騒がしいので客が勘定を払わずに帰ってしまったという。

または、本を読んでいる者に読んでくれと頼むのですが、偉そうに言う割りにはどうしようもない読み方。
エェェェェェェェーとサイレンまがいの声色で調子を試して…。

「このと…き、真柄…真柄ジフラ…じゃねぇ。真柄十郎左衛…門が、敵に向かってまつこう…まつこう…マツコウ!!」
「何だい?」
立て板に水どころか【横板に餅】。「真っ向」という言葉を聞き違え、松公というあだ名の男が返事をしてしま居ます。

「真っ向…立ち向かって、一尺八寸の大刀を…」
「オイオイ、一尺八寸のどこが大刀だよ? それじゃあ肥後の守だ」
「そこは但し書きが書いてある。『一尺八寸とは刀の横幅なり』…」
「馬鹿! そんな戸板みたいな刀があるかい!? 第一、前が見えないだろ?」
「そこはもう一つ但し書き。『刀には窓が付いていて、敵が来たらそこから覗く』」

その次は昼寝をしている者を起こすと、自分のノロケを話仕出します。
「歌舞伎座で芝居を見たんだ。後ろの席に綺麗な女がいてさ、そいつが俺に『自分の代わりに褒めてくださいよ』って頼むんだよ。俺ァすっかり舞い上がっちゃってさ、舞台に向かって『音羽屋! 音羽屋!』」

怒鳴っている内に芝居が終わってしまい、仕方なく『幕!』。

「帰りがけにさ、その女のお供に呼び止められて、お茶屋に招待されたんだよ。そこには女が待っていてね、杯をやったり取ったり楽しくて…」

飲みすぎてグロッキーになってしまい、半次が寝ていると女が帯解きの長襦袢一枚で「御免遊ばせ」と布団に入ってきた…!!

「フワー、夢みたいな話だな! …で?」
「一緒に寝た所で…俺をたたき起しやがったのは誰だ!?」

時間や客の様子でこれらを取捨選択して高座に掛けます。

落語としては上方落語で、明治末に初代小せん師が東京に移しました。
戦後はほとんどの噺家が演じました。
圓生師と金馬師の音源も残っています。

江戸の髪結床は、通常は親方一人に中床と呼ばれる下剃りの助手と、見習いの小僧の計三人です。
中床を置かず、小僧一人の床屋もありました。
二階は噺に出てくるように社交場になっていて、順番を待つ間、碁将棋、馬鹿話などで息抜きをする場でもありました。
髪結賃は大人三十二文、子供二十四文が幕末の相場です。
音源は春風亭百栄さんで聴いて下さい

春風亭 百栄(しゅんぷうてい ももえ)、1962年9月3日生まれ、本名、青木 規雄 、出囃子は『二ツ目の上がり』
1995年2月 - 7代目春風亭栄枝に入門 前座名「のり太」、1999年5月 - 二つ目昇進し、「栄助」
2008年9月 - 真打昇進し、「百栄」