nuenokai(omote)今日は「二つ面」と言う噺です。
これは八代目正蔵師の作です。
最もこの噺には前段とも云うべき噺がありまして、「生きている小平次」と言う怪談噺ですが、この小平次と言うのが、「小幡小平次」と言う人物で、山東京伝の『復讐奇談安積沼』や鶴屋南北の『彩入御伽草』などの江戸時代の怪談話に登場する架空の歌舞伎役者と言う事です。
で、この噺にも登場します。
幽霊なのに誠に人間臭く出てきます。

初席の四日目の事、怪談噺を得意とする噺家の柳亭西柳が高座を済ませ、弟子の佐太郎と近頃の客について話ながら帰っていると、追いはぎが突然金を出せと声をかけます。

佐太郎は驚いて、今日の割を盗られてはなるまいと逃げていってしまいます。
残された西柳は、追いはぎも初仕事ということであふれては縁起が悪いので、何か差し上げたいと、羽織と財布の中の銭を渡そうとします。
ところが、追いはぎはギャーと言う声を上げて逃げてい来ました。

師匠という声がするので見ると、西柳が売り物にしている怪談噺の主人公小幡小平次の幽霊が現れます。
丁寧に挨拶をし、深川の寄席に師匠の噺を聞きに来たというのです。
松島町に部屋があるので来るように誘われ、肩につかまり目をつむると一瞬にして到着しました。

この家は恨みのあった多九郎の子孫のもので、恨みを遂げると、今度はその子孫の守り神になると言います。
寿司をご馳走になり話をし、その中で、怪談話で最近の客は笑うが、それは強がってのこと。
師匠の面の作りはいいが、一つだから客が笑う。後ろにも面があれば客はぎょっとする、二つ面にすれば笑わないと教わります。

幽霊と別れた後、二つ面については忘れていたのですが、秋口になって、風邪を引いたのが長引きます。
その間、弟子の佐太郎が寄席で怪談噺をやっています。
それを知った西柳は二代目柳亭左柳の名を継ぐように勧め、小平次の幽霊から教わった二つ面について伝授します。

その後、佐太郎は師匠の好物の寿司を買いに出かけます。
その時、再び小平次の幽霊が現れ、守り神として箔がつき、極楽へ行くことになり当分会えないので来たとい居ます。
そして、極楽に行った幽霊が娑婆に残した寿命が積もり積もって三百年あるので師匠にやると言って消えてしまいます。
その後、佐太郎が帰って来て、小平次の幽霊とのやり取りを話すと
「へえ〜、師匠結構で」
「何が結構なことがあるものか。怪談噺をやるよりか、ほか能のない人間で、おまけにひどい貧乏人が三百年も生きたら世間の人が笑うだろう」
「笑う?ああ、笑う人には二つ面をお見せなさい」

これは、正直、怖くありません。
むしろ面白いと形容したほうが良い噺です。実は私は好きな噺の一つです。
噺家の世界も垣間見れるので、楽しいですね。
「生きている小平次」では、多九郎が「小平次は生き返る」と語っているので、この噺に続くのでしょうね。
こちらの方はかなり怖いです。

音源はもちろん正蔵師で聴いて下さい。

昭和38年11月15日第53回東京落語会