img012-4-3今日は「うどん屋」です。
これは、上方落語「かぜうどん」を明治期に三代目小さん師が東京に移植したもので、代々柳家の噺とされています。大正3年の二代目柳家つばめ師の速記では、酔っ払いがいったん食わずに行きかけるのを思い直してうどんを注文したあと、さんざんイチャモンを付けたあげく、七味唐辛子を全部ぶちまけてしまいます。
これを、昭和初期に六代目春風亭柳橋師が応用し、軍歌を歌いながらラーメンの上にコショウを全部かけてしまう、改作「支那そば屋」としてヒットさせました。

うどん屋が、鍋焼きうどんを、荷を担いで売り歩いていますと、そこへ酔っぱらいが通りかかって、
火に当たらせてくれと言い出す。商売になると、うどん屋は、酔っぱらいの相手をしますが、同じ話の繰り返し、水を飲んで、うどんを食わずに酔っぱらいは帰ってしまいます。
うどん屋は、気を取り直し、商いを始めますが、声がなかなか掛かりません。、
やっと大きな商店のほうからかすれた声で呼ばれます。

小さな声で呼ばれたときは、店の奉公人などが、店の主などには、ないしょで食べるのだから、商いも大きいので、うどん屋もその辺を心得て、同じくかすれたような小さな声で返事をしながら、呼ばれたあたりに荷を下ろし、何人前かと尋ねたら、1人前と言われ、うどん屋は、試しに食うと思いおいしく作ります。
相手はふうふういいながらうどんを食べ終わった。お代わりもなく、1人前の代金の支払いを済ませ、食べた男がうどん屋に、かすれた小さな声で声をかけた。
「うどん屋さん」
うどん屋も同じく小さなかすれ声で返事をした。
「ヘイー」
相手はうどん屋に
「お前さんも風邪を引いたのかい?」

鍋焼きうどんといえば、天ぷらに卵野菜などがたくさん入ったものを考えますが、
この落語に出てくる鍋焼きうどんは、、かけうどんを鍋で煮こんだモノの様です。
三代目小さん師が初めてこの噺を演じたときの題は、「鍋焼うどん」という題でした。
全編を通して、江戸の夜の静寂、寒さが大事な噺でもあり、小さん師はよくその情景を表しています。
今日の音源で特筆なのは、小さん師のうどんをすする音に”注耳”して下さい。
確実に蕎麦とうどんの食べ分けが出来ています。正に名人芸ですね。

個人的な思い出を・・・晩年、脳梗塞で倒れられてからの小さん師匠はハッキリいって往年の芸は蘇りませんでした。
でも、ある時、寄席で飛び入りで師匠が出演したのです。
この頃、たまに、そんな事があるというウワサは聞いていましたが、まさか自分が行った時に当るとは思ってもみませんでした、
その時演じたのがこの噺でした。
前半は、この頃の感じであまり感情が入らない口調でしたが、後半からは乗ってきました。
そして、うどんを食べるシーンで、「ふっ、ふー」と冷ます処で私は鳥肌が立ってしまいました。
たったそれだけで、寄席を深夜の冬の街角にしてしまったのです。
恐れ入りました、ホント、凄かったです。
という訳で、今日も小さん師匠で聴いて下さい。